金田一耕助の事件簿054
｢因縁、復刊！｣の文字が躍る通りの強烈な｢因縁｣
「支那扇の女」（横溝正史）
（「支那扇の女」）角川文庫
成城の住宅街で起きた
二重殺人事件。現場から
半狂乱で逃げ出した女は、
自殺を図るが警官に止められる。
その女･美奈子と、
夫である朝井照三は、
それぞれの大伯母･大伯父が、
事件の加害者･被害者であると
いう因縁を抱えていた…。
金田一耕助が最後の土壇場で
鮮やかな逆転劇を見せる長編推理。
長らく絶版状態でしたが、
先月ようやく復刊されました。
帯に｢因縁、復刊！｣の文字が
躍る通り、
不思議な因縁を題材化した傑作です。
【事件簿File-054｢支那扇の女｣】
〔事件発生〕
昭和32年8月(東京)
〔依頼人〕
※警察への捜査協力
〔捜査関係者〕
服部警部補…武蔵野署捜査主任。
山川警部補…成城署捜査主任。
志村刑事…成城署刑事。
木村巡査
…成城署巡査。巡回中、
自殺しようとする女に遭遇。
等々力警部…警視庁捜査一課警部。
〔事件関係者〕
八木克子
…故人。｢支那扇の女｣のモデル。
姑･小姑毒殺未遂で逮捕され、獄死。
八木冬彦
…故人。妻･克子を告発。
八木夏彦
…八木家現当主。
従兄弟･照三と同年代。
佐竹恭助
…故人。洋画家。｢支那扇の女｣の作者。
朝井照三
…作家。冬彦は大伯父にあたる。
朝井美奈子
…照三の妻。克子は大伯母にあたる。
朝井康子
…照三の先妻。故人。
藤本恒子
…康子の母。殺害される。
朝井小夜子
…照三と康子の子。
武田君子
…朝井家の女中。殺害される。
辺見東作
…朝井の作品を担当する挿絵画家。
本作品の味わいどころ①
先祖は殺人の加害者･被害者
本作品一番の目玉は、
殺人事件の重要な関係者と思われる
朝井照三･美奈子夫妻が、
お互いにかつての毒殺未遂事件の
加害者と被害者の子孫であることです。
美奈子の大伯母･克子が、
照三の大伯父･冬彦の
母親と妹を毒殺しようとした事件を
なぞるように、
照三の義母と使用人が
殺害されたのですから
なんとも強烈な｢因縁｣です。
本作品の味わいどころ②
これでもかの怪しい設定
美奈子は夢遊病癖を有していて、
今回の殺人もその病癖ゆえの事件と
思われていたのですが、
夢遊病であることは
夫･照三のみが知っていることで、
美奈子自身に自覚症状はなく、
それは真実か、
それとも夫による狂言なのか、
まったく不明です。
しかも八木家の墓から
見つかったという｢支那扇の女｣も、
照三のみが
発見の現場にいわせただけで、
あとは誰も知らないのです。
焼き捨てられた｢支那扇の女｣は
実物なのか、それとも
何らかの意図を含んだ偽作なのか、
こちらも不明です。
このような｢怪しい設定｣が
縦横無尽に張り巡らされているのです。
本作品の味わいどころ③
最後に大どんでん返し
事件解決かと思われた最後の数頁で、
金田一が鮮やかな活躍を見せ、
事件を根底からひっくり返します。
反則技に近い部分もあるのですが、
ミステリとして
衝撃的な結末となっているのです。
「金田一先生の
職業上の秘密というのは、
前科者をつかって
他人の電話をぬすみ聞きさせたり、
あるいは無断でひとの家へ
しのびこませて、
床下からそこの主人の
動静をさぐらせたり、
そういうことも
ふくめられているんですな」。
最後の場面で等々力警部は
金田一をチクリと刺すのですが、
そういう｢技｣も含めて
横溝の筋書きづくりは
面白さ追求を徹底しているのです。
今年は横溝正史
没後40年＆生誕120年の
メモリアル･イヤーです。
横溝作品を十分に味わいましょう。
（2022.2.25）
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